【d!】蛇とイチゴ【zm】 (ページ15)

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首根っこページ15

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「お。」
「お？」
「おばあちゃんの、とこに、ひっく、かえりたい⋯⋯。」

ここに来て、Aの初めて言った弱音は夜の空気にぽつりと響き、溶けて消えた。聞き取れなかったんじゃないかというくらい小さくて、風が吹いたら掻き消えてしまいそうだった。口に出すと、自分の言葉が耳に入って頭の中で反響する。心臓がぎゅうと握りつぶされたみたいに苦しくなった。

「え？自分の身も自分で守れへんくせに何言うてんの？」

ほんの少し間を置いて、ゾムはそう言った。呆れたような物言いに、Aは言葉が出なかった。何を言っているのか理解が出来ない。ぼうっとした頭で何を言われたのか噛み砕くのは、随分と時間がかかった。

「自分の身くらい自分で守れます！」

そこに生まれたのは僅かな苛立ちだった。空っぽのはずなのに、胃の奥がムカムカする。ムキになって言い返したから、そんなつもりじゃなかったのに、強く叱責するみたいな言い方になってしまった。そんな自分が嫌で、顔を伏せる。

「ふーん。」

Aが怒鳴ったというのに、ゾムの反応はただそれだけだった。

かと思えば、次の瞬間まるで母猫が子猫を持ち上げるみたいにグッと首根っこを掴まれる。ぎゅうと首が絞まり、呼吸が出来なくなってかひゅ、と空気が漏れた。全身が逆立つように恐怖が駆け巡り、つま先から力が抜ける。一瞬、目の前が真っ白になった。

「ほらな？」

ふいに離された手から、自由になった身体は崩れ落ちていった。苦しさから咳き込むと、塞がっていた気道が元の形を取り戻していく。ゆっくり徐々に夜の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
ゾムの言葉に反論の余地はない。自分は弱くて、ちっぽけで、何も出来ない子どもだ。Aは、全てを投げ出したいくらい何もかもが嫌になった。

「う、うう⋯⋯。」

ぼろぼろと溢れる涙を隠そうと、目を押さえる。自分が情けなくて、みっともなくて、袖口は水に浸したときみたいに濡れていた。
とんとん、という小さな足音と共に気配が遠ざかっていく。泣いている女は面倒くさかったのだろう。それも、こんなに子供っぽい理由で泣いているんだから。
そんなふうに面倒臭がるんだったら、最初から話しかけて来なければよかったのに。慰めを期待していたわけじゃなかったのに、矛盾した考えが浮かんだ。

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