【d!】蛇とイチゴ【zm】 (ページ29)

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嘘ページ29

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「なに？」

ゾムは、白々しい態度で聞く。明らかにおかしいのに、まるでそれが普通みたいに言うから、変な感じだった。

「あの、距離が近い⋯⋯。」

だから、離れて。言葉には出さなかったものの、言わなくてもそれくらいは伝わるだろう。いや、伝わってもらわないと困る。Aは目を合わせないように俯きがちに言った。
しかし、ゾムはその言葉を受けて離れるどころか、ずい、と顔を近付ける。Aは白くてつんと尖った鼻が近くに来ていたことにビックリして、ひょっ、と喉から変な音が出た。

「だ、だから、なんで！」
「なんで？」
「え？」

普段ゾムのフードによって見えづらい部分が、あまりの近さに睫毛の先まで見えている。少し開いた窓から入り込む風が、前髪を撫でるように揺らしていた。

「なんでって、俺の事好きなんやろ？」

ゾムは、そう言って三日月のように口角を上げた。意地悪く笑うから、さすがにAもこれは揶揄われている、と分かっている。分かっているのだけれど、それに対してどう返せば良いのかが分からなかった。

「あ、あれは、その、言葉のあやで⋯⋯。」

Aが口篭る。クソ真面目に誤解を解こうとそう言った。

「は？嘘ついたん？」

だがしかし、ゾムはそれに突き刺すように言葉を被せた。男の人の低い声でそんなふうに言われてしまい、Aの身体に力が入る。至近距離にある目に細い光が入り、普段よりももっと鋭くなって今にもAを貫かんとしていた。まるで、蛇が獲物を見定めているかのように。
嘘とかではない。決して。ただ、気が動転して何を言ったのかも分からないときに口走っていたのだ。Aは、寝言を問い詰められているような気分だった。夢も見ていないのに。

「や、あ、う、嘘じゃないです⋯⋯。」

Aの言葉を聞いたゾムは、ふっ、と小さく吹き出すように笑って、近付けていた顔をやっと離した。離したのは顔だけで、身体は依然として近くにあるのだけれど。
初夏の風が薄らと汗を滲ませる。弱点を知るどころか、結果的に私の方が追い詰められているじゃないか。Aはそう思った。
しかし、怖い目に遭ったことを思い出すと、弱点を探ろうだなんて考えない方が良いんだなという結論に至ったのだった。

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